「大金を投資したから…」「せっかくここまで続けたのだから…」と、今まで費やしてきた費用や労力もったいなくて投資をやめられなかった経験はありますか?この心理傾向を「サンクコスト効果」といい、ビジネスだけではなく私達の日常効果に影響を与えています。
今回は、新型コロナショックで陥りやすいサンクコスト効果について説明していきます。無意識に働く心理的効果を理解して、正しく判断する力を身に着けましょう。
サンクコスト効果とは
サンクコストは、英語で「Sunk Cost」と書きます。Sunkは「Sink(沈む)」の完了形なので、サンクコストは「すでに沈んでしまってもとに戻らない費用」という意味です。
たとえば、新しい飲食店を始めようとして1,000万円をつぎ込んだとします。しかし、コロナ禍で客足が伸びず、赤字続きになってしまいました。このときの費用を、「サンクコスト」といいます。
本来であれば、飲食店をやめて損失がこれ以上増えないようにするべきです。しかし、この状態でも「1,000万円もつぎ込んだんだ、やめたらもったいない。新型コロナショックが落ち着いたら損失を回収できるかも。」と考えてしまうことを「サンクコスト効果」といいます。
このようにサンクコスト効果とは、投資を続けると損失が出るとわかりつつも、今までのコストや労力を惜しんでさらに投資してしまう心理傾向のことを指します。
サンクコスト効果=コンコルド効果
サンクコスト効果と同じ意味を持つ言葉として、「コンコルド効果」というものがあります。これは、英仏で開発されていた超音波旅客機コンコルドが名前の由来になっています。
約4,000億円をかけて開発されたコンコルドは、開発途中で大赤字になることがわかりましたが、これまでの投資を無駄にしたくないと開発は続行。結果的に数兆円の大赤字が出てしまったと言われています。
サンクコスト効果とコンコルド効果は、名称は違いますが全く同じ意味です。ほかにも、「コンコルド錯誤」や「コンコルド誤謬(ごびゅう)」、サンクコストの呪縛と呼ばれることもあります。
サンクコスト効果の例
先ほどサンクコストの例をビジネスで紹介しましたが、サンクコスト効果の心理傾向は私達の日常にも反映されています。
どれも客観的に見ると合理的ではない選択に見えますが、サンクコスト効果に陥っているときは正しい選択ができません。自分がサンクコスト効果に陥っていることを客観的に理解し、正しい選択ができるように思考をリセットすることが大切です。
サンクコスト効果への対処法
日常的な場面でサンクコスト効果に陥っても、大抵は大きな問題にはなりません。しかし、「ギャンブルで大負けをしているのにお金を投下する」「大赤字が出ているのに事業をやめられない」など、サンクコスト効果は場合によっては取り返しのつかない大きな損出を生んでしまうこともあります。
では、サンクコスト効果に陥っているときはどのようにしてリスクを回避したら良いのでしょうか。ここからは、サンクコスト効果への対処法を紹介していきます。
①限度を決めておく
サンクコスト効果に陥らないように、投資をするときは限度を先に設定しておくことをおすすめします。「1年間で事業が軌道に乗らなければやめる」「投資額は◯円まで」など、上限に達したらキッパリとやめるのです。こうすることではじめから割り切って投資することができ、サンクコストにとらわれることがなくなります。
この考え方は、損切りにも応用可能です。「◯円損失が出たらやめる」とあらかじめ決めておけば、予算以上の投資を防ぐことができます。
②ゼロベース思考を持つ
ゼロベース思考とは、今の考えや今までのコストを一旦ゼロにして、白紙の状態で物事を捉える思考のことです。
たとえば、多額を投資して現在大赤字が出ている事業を、始める前に戻れたらどうするかを考えてみます。もしも答えが「NO」であれば、事業をやめてほかのことに投資するべきです。
日本人の「もったいない=MOTTAINAI」の精神は美徳ですが、ビジネスや投資においては弊害になることがあります。「もったいない精神」を一度忘れて、ゼロ地点に戻って物事を判断してみましょう。
③客観的な見方をする
サンクコストにとらわれているときは、物事を主観的にしか見られていません。たとえサンクコスト効果というものを知っていても、「もう少し頑張ったらきっと…」と希望的観測で物事を判断してしまうことは避けられないのです。ポジティブなのはいいことですが、ビジネスや投資では過度な主観や希望的観測は除外すべきです。
物事を客観的に見るには、信頼できる第三者からの助言が役立ちます。サンクコストを除外した、合理的な助言をくれるはずです。また、数字で判断するのもおすすめです。情報操作がされていない数字は、正しい選択をするための合理的な判断材料になります。
客観的な意見や数字があれば、このまま続けた場合の損益を正確に試算することが可能です。客観的なデータベースの試算をした上で続けるべきでないとわかれば、自分自身も納得して投資をやめられるでしょう。
④機会費用を考える
機会費用とは、ある選択をしたことによって得られなかった機会の経済的価値のことです。
たとえば、退屈な本を読み続ける選択をしたとします。この場合は、「有意義な本を読むこと」「友人や家族と過ごすこと」などが機会費用として挙げられます。
このように、物事を判断するときはサンクコストではなく、機会費用をベースに考えると合理的な判断ができるようになります。サンクコストを切り捨てて新しい行動を起こすことで、新たな可能性を切り開くチャンスが手に入るかもしれません。
コロナ禍では、サンクコストを断ち切った判断が重要
今まで費やした時間やコストに後ろ髪を引かれて、投資を続けて損失を回収しようとする心理傾向が、サンクコスト効果です。ビジネスにおいて、サンクコストを引きずってダラダラと投資することは、百害あって一利なしです。客観的な意見・データをもとに、思い切って事業をやめたり方向転換するのも有効な経営戦略だといえます。
とくに新型コロナショックに陥っている現在、「コロナが収まったら損失を回収できる」と考えてしまいがちです。サンクコスト効果に陥らないように、十分注意しましょう。