2018年の流行語大賞にもノミネートされた「GAFA」をご存知でしょうか。GAFAは、IT市場を代表する企業の頭文字を取ったもので、同じような言葉として「GAFAM」「FAANG」「BATH」というものも存在します。
今や日本人にとっても欠かせない企業となったGAFAやFAANGの中には、日本企業は含まれません。ものづくりでは世界トップの技術を持つ日本ですが、IT産業では世界に大きく後れを取っているのが現状です。
新型コロナショックで懸念すべき点は、健康被害や経済への打撃だけではありません。コロナショックであぶり出された日本の社会構造についても、しっかりと対処していくことが求められているのです。
今回は、GAFAやFAANG各企業の紹介と日本IT産業の課題について深堀りしていきます。
世界で注目されている企業群
流行語大賞にノミネートされたとはいえ、GAFAやFAANGという言葉を知らない方も多いのではないでしょうか。まずは、世界を代表する企業を表す語句について解説していきます。
GAFA(ガーファ)
GAFAは、「Google」「Apple」「Facebook」「Amazon」の頭文字を集めた呼称。検索エンジンの「Google」、デジタルデバイスの「Apple」、InstagramやWhatsAppを含むSNSの「Facebook」、ネットショップの「Amazon」と、各々が得意とする分野で市場を席巻している企業ばかりです。
もともとは出版業界の脅威としてIT企業を「GAFAM」と呼んでいましたが、現在はM(Microsoft)を抜いた4社に注目が集まっています。
FAANG(ファング)
FAABGは、「Facebook」「Amazon」「Apple」「Netflix」「Google」の頭文字を集めた総称です。GAFAに似ていますが、Netflixが追加されているところが特徴です。
「なぜNetflixが?」と思われるかもしれませんが、Netflixは、アメリカの働きたい企業ランキングでAppleやAmazonよりも上位にランクインする人気企業。[注1]アメリカでは莫大な人気や影響力をもつ企業なのです。
BATH(バース)
上位2つと比べると知名度は低くなってしまいますが、中国で力を持つIT企業を集めたBATHにも注目が集まっています。
BATHは、中国の検索エンジン「百度(バイドゥ/Baidu)」、QR決済のアリペイを手掛ける「阿里巴巴(アリババ/Alibaba)」、Wechatを手掛ける「騰訊(テンセント/Tencent)」、通信機器メーカーの「華為(ファーウェイ/Huawei)」の頭文字を取ったものです。
日本企業が国際競争に後れてしまった理由はどこにある?
上記でご紹介したように、世界を席巻する企業は今やアメリカや中国がメインで、日本企業は後れを取っている状態です。日本のIT産業の後れは経済にも影響を及ぼし、新型コロナショックでIT後進国だということが明確に露呈されました。
経済の観点から見てみると、日本や欧州の主要企業の2020年1~3月期における業績は前年同期比で7割から8割に落ち込んでいますが、5Gや通信分野を伸ばしているアメリカや中国は純利益が4割程度の減少にとどまっていることがわかっています。IT産業の発展による経済発展格差は、コロナショックでさらに広がっていくことが予想されます。
「日本企業のIT投資はアメリカに比べて10年は後れている」という言葉があるほど、日本はITやWebサービスの国際競争に出後れてしまっています。なぜ、ものづくり大国である日本はここまでIT産業で後れてしまったのでしょうか。その理由として、ここでは4つの要因をご紹介していきます。
理由① 言葉の壁
まず挙げられるのが、言葉の壁です。
現在、英語を実用レベルで使用している人の数は15億人にも上っています。世界人口を約73億人とすると、世界中の約5人に1人は英語で話せるということになります。
一方で25歳以上の日本人の英語人口は、総人口の8.4%以下である804万にとどまっているのが現状です。日本の英語人口は年々増えつつありますが、現時点では日本人の10人に1人も英語を実用レベルで使用することができないのです。[注2]
英語を苦手とする日本人は当然、世界にサービスを提供する際に言葉の壁にぶつかるでしょう。さらに日本人は、世界が提供する英語を使ったサービスの利用が難しくなります。そのため、世界からワンテンポ遅れて海外で流行ったサービスを利用することになります。
世界へのサービス提供に二の足を踏み、先人の後ろを追いかけるだけのビジネスモデルでは、世界の国際競争に追いつくことが不可能だということは容易に想像できるでしょう。
さらに、ICT等のデジタル分野では、英語を基にした横文字の専門用語が多く出てくることもあり、これもアレルギーを生み出す要因となっているのかもしれません。
理由② 日本人の特質
日本がIT産業で後れてしまった理由として次に挙げられるのが、日本人の特質です。とにかく変化を嫌う特質を持った日本人は、変化が必要な場面でも現状維持を選んでしまいます。
その影響は政治にも現れており、コロナショックという大きな変革のときでも、制度の改革や大きな対策を取ることができていません。現状維持をすれば、入試ができなくなったり企業へのダメージが大きくなったりすることは明白なのですが、それでも日本はできるだけ現状維持を選んでいるのです。
このように「変化したくない」「新しいことは悪だ」と考える思考こそが日本人の長所でもあり、IT産業で後れを取ってしまう短所でもあります。前例のないものを認めない国民性は創造力を欠如させ、新しいサービスの開発の足かせになるでしょう。
意味のないハンコ文化も、日本人の変化を嫌う特質を表す顕著な例だと言えます。同じように、日本人の同調圧力や「同じ能力を身に着けさせる」ことに重きをおいている教育方針も、IT産業の後れを助長しているのです。
変革を恐れずに新しいことや多様性を受け入れる姿勢こそ、今の日本人に必要なものなのかもしれません。
理由③ DX化が進まない
DX化(デジタルトランスフォーメーション)とは、「企業が環境の変化に対応し、データとデジタル技術でサービス・ビジネスモデルを変革するとともに、業務や組織、企業文化を変革して競争優位性を確立する」ことです。これは単なるデジタル化ではなく、デジタル技術で企業や社会自体を変革する取り組みのことを意味します。どんな企業でも、DX化することで業務の生産性が向上し、消費行動の変動に対応したビジネスが生まれるようになります。
たとえばMicrosoftはDX化の一環として、従来のOfficeソフトをライセンス制ではなくクラウドサービスに切り替えましたし、Amazonは従来書店で購入するものだった書籍をオンラインで売買することでネット販売ビジネスを確立しました。
このようにIT時代とも言える現代では、DX化なしでは産業の発展は語れません。しかし残念ながら日本は、DX化が進まない国としてアジア諸国に知られています。
その理由としては、ITの価値を理解する経営者がいないことが挙げられるでしょう。日本人経営者の平均年齢は約60歳となっており、少子高齢化とともに企業運営陣の高齢化も進んできています。高齢になった経営者はITの本質的な価値を理解しようとはせず、DX化のメリットを理解できていないことがほとんどです。
日本がIT産業で世界に追いつくためには、こういった昭和の考えを捨てて時代にあったデジタル活用やIT活用の知識を身につけていくことが大切です。
理由④ 失われた30年
失われた30年とは、「国や地域における約30年の経済低迷」の通称を指します。日本はバブル崩壊後の1990年初頭から経済停滞が続き、平成の時代を失われた30年と評する専門家もいます。
経済の低迷が続く中、リスクを取って新しい分野の技術革新に投資する選択をする企業や投資家は少ないものです。その結果、研究者は積極的な研究開発ができず、日本はIT革命に乗り後れてしまいました。
また、日本政府の補助行政の歪みもIT産業に大きな影響を与えているでしょう。失われた30年のさなか、日本企業は「政府からの研究補助を手放せいない」と、消費者ではなく政府の方を向いて研究開発に勤しんでしまう傾向にありました。その結果、いつまで経っても時代のニーズに沿ったビジネスができずに、IT産業において二の足を踏んでしまっているのです。
不況の中、リスクを取って新しい技術を開発することは難しいかもしれません。しかし、経営者自信がビジネスに対する姿勢を変えてIT投資をしなければ、日本のIT産業がアフターコロナの時代でさらなる後れを取ってしまうことは確実だと言えるでしょう。
国際競争に追いつくには、経営者一人ひとりの意識を変えることが大切
GAFAやFAANG、BATHなど、現在世界のIT産業を背負うのはアメリカや中国の企業ばかりです。日本はIT分野で大きく後れを取っており、このままではIT先端分野での取り組みや変化に取り残されてしまう可能性が高いです。
コロナショックの影響で、日本の強みだった自動車や部品などのものづくり産業の回復には時間がかかります。今IT産業へどれくらい投資するかによって、アフターコロナの日本経済は大きく変わってくるでしょう。
IT産業の後れを取り戻すには、経営者一人ひとりが日本人の特質から抜け出してIT活用の重要性に気づくことが大切です。新型コロナショックを受けて、一人でも多くの経営者の意識が変わることをただ祈るばかりです。
[注1]https://hired.com/page/brand-health-report/top-global-employer-brands
[注2]https://english-club.jp/blog/english-world-population/